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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)57号 判決

札幌市東区北四三条東三丁目二-一八

原告

出塚寛孝

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官

清川佑二

"

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  原告の求めた裁判

1  特許庁が平成二年審判第一七二一二号について平成七年一二月一五日にした審決では、審査についての違法性精査の重要な遺脱があるので、違法についての判断を求める。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  当裁判所の判断

1  原告が請求の原因として主張するところは、別紙訴状写し記載のとおりであるが、要するに、「原告が、名称を「二輪車の前輪を駆動する動力伝達機構」とする発明について、昭和五七年特許願第二二二六四九号をもつてした特許出願についての審査手続において、特許庁の審査官は、引用すべきでない二つの引用例を引用して拒絶査定をしたので、原告は右拒絶査定を不服として審判請求をした(平成二年審判第一七二一二号)ところ、特許庁の審判官の合議体は、平成四年二月一九日、原告の審判請求は成り立たない旨の審決をした。原告は東京高等裁判所へ右審決の取消訴訟(平成四年(行ケ)第七九号)を提起し、審理の結果平成五年九月八日、右審決を取り消す旨の判決が言い渡され、その後右判決は確定した。そこで、前記審判請求について再度審理した審判官の合議体は、出願公告決定を経て、平成七年一二月一五日、「原査定を取り消す。本願の発明は、特許をすべきものとする。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をした。本件審決が、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によつて拒絶すべきものとすることはできないと判断する点は認めるが、審査手続で前記二つの引用例を引用したことは違法である旨の判断をしていないことは、審判の違法性精査義務に違反し違法であるから、前記裁判を求める。」というものである。

2  拒絶査定不服の審判請求について特許庁のした審決に対する不服の申立ては、行政事件訴訟法三条三項所定の裁決の取消しの訴えの一形態として特許法一七八条一項、一八一条一項の定める審決の取消しを求める訴えに限られるものであり、単に審決の理由や、その説示の仕方が違法である旨の判断を求める訴えは許されない。(特許庁のした審決に対する不服の申立てとして審決取消訴訟の他に、行政事件訴訟法三条四項所定の無効等確認の訴えの一形態として審決無効確認の訴えを認める余地があるとしても、審決の理由やその説示の仕方が違法である旨の判断を求める訴えが許されないことは同様である。)

また、原告は、訴状に頭書の事件名を記載し、審決の不作為の違法確認を求めるかのようであるが、審決がされたことは訴状の記載から明らかであつて、行政事件訴訟法三条五項所定の不作為の違法確認の訴えとしても訴訟要件を欠き不適法である。

したがつて、原告の本件訴えは訴訟要件を欠き、この点についての欠缺を補正することもできないから、却下を免れない。

3  よつて、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法二〇二条を適用して、本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 高部真規子 裁判官 池田信彦)

訴状

1.原告 住所 〒065札幌市東区北43条東3丁目2-18

氏名 出塚寛孝

2.被告 住所 〒100東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

氏名 特許庁長官殿

3.事件の表示 手続きの違法に関する損害賠償請求権を確認するための審決の不作為の違法確認の訴え

(1)請求の趣旨

「特許庁が平成2年審判第17212号について平成7年12月15日にした審決では、審査についての違法性精査の重要な遺脱があるので、違法についての判断を求ある。訴訟費用は被告の負担とする。」

(2)請求の原因

〈1〉特許庁における手続きの経緯

出願日 昭和57年12月18日

出願番号 昭和57年特許願第222649号

発明の名称 二輪車の前輪を駆動する動力伝達機構

拒絶査定日 平成2年7月24日

審判請求日 平成2年9月25日

審判番号 平成2年 審判 第17212号

審決の結論 原査定を取り消す。本願の発明は、特許をすべきものとする。

審判での第1回目の拒絶理由通知書の発送日 平成3年12月24日

第1回目の審決日 平成4年2月19日

第1回目の審決謄本送達日 平成4年3月12日

東京高等裁判所審決取消訴訟平成4年(行ケ)第79号判決言渡 平成5年9月8日

審判での第2回目の拒絶理由通知書の発送日 平成5年12月7日

審判での第3回目の拒絶理由通知書の発送日 平成6年6月21日

出願公告決定書謄本送達日 平成7年1月30日

特許査定の審決書謄本送達日 平成8年2月8日

〈2〉本願発明の要旨

「クランク軸で発生した動力を、フレームパイプのダウンチューブ付近に位置するユニバーサルジョイントを組み合わせたシャフトに伝達し、さらにヘッドチューブの直下をユニバーサルジョイントを用いて経由して 前輪へ動力を伝達する二輪車の動力伝達機構。」

〈3〉審決の理由

1. 本願は、昭和57年12月18日の出願であってその発明の要旨は、出願公告された明細書と図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものであると認める。

そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

平成7年12月15日

審判長 特許庁審判官 高橋邦彦

特許庁審判官 塩崎明

特許庁審判官 築山敏昭

特許庁審判官 鈴木法明

特許庁審判官 塩澤克利

〈4〉審決取消事由

審査段階での2つの引用例に関して、図面のかさ歯車のかみ合う位置関係と回転方向や その他の平歯車の回転方向から、自転車は ペダルが正回転すると車輪が逆転して後ろ向きに駆動されるか あるいはペダルが逆転して駆動されるが、日常社会で見受けられる自転車または二輪車は このようなことがなく、違法な引用例である。よって、もとより 引用例自体を拒絶理由とすることが違法であるから、特許庁の平成7年12月15日付け審決の特許査定の審決書の第2頁「原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。」については認めるが、「審査での引用例(実開昭56-8599号公報)と(実開昭49-22640号公報)は、日常生活で一般に二輪車または自転車の ペダルの逆転による前方への駆動あるいはペダルの正回転による後ろ向きの駆動が当業者において実施許容されてないから、違法である。」の判断を付け加えることが正しいと主張し争う。自転車または二輪車では、ハンドルとサドルによって車体の中心線上に身体の重心を置き安定を保ちながら運転者の体重と背筋力を利用して効率的にペダルを踏むか走行するという人間の足は身体の前方には出るけれども後方には出づらいという機能に沿った乗車姿勢を取るから 後ろにペダルを踏むのは困難なのであって、エンジン付きの二輪車でも運転者はハンドルを両手で握りながら目と顔を完全に後ろ正面に向けることと かつ車体の安定をも保ちながら後ろ向きに走行するのは困難である。特許庁の特許審決では審判段階での違法性精査義務に違反していて違法である。これに対して、本願発明では図面と明細書から、自転車はペダルが正回転すると前方へ駆動されると言える。平成4年1月6日付けの意見書では 引用例(実開昭49-22640号公報の違法性の精査を求めている。平成6年6月7日付けの意見書では 第1引用例(実開昭56-8599号公報)の違法性を第1頁第2行ないし第9行で指摘し さらに第1頁第20行ないし第2頁第2行で審査手続きの違法を指摘してある。平成6年10月28日付け意見書では平成4年1月6日付けの意見書を補充して引用例(実開昭49-22640号公報)の違法を指摘してある。

また、特許庁での本願発明に関しての審査と審判は、日常において排斥されることが周知で違法な引用例に拠った以上 手続きとして違法であって、結果的に特許の査定の遅延あるいは 出願公告決定の遅延による特許権の期間の短縮と 特許権者である特許出願人の事実上の手続きのための対応について損害賠償されるために、引用例が違法であり手続きも違法であると主張し争う。

自転車では通常、後輪のハブすなわち車軸に一方向にだけ回転を伝えるラチェットが組み込まれていて、このとによりペダルを踏まなくても慣性走行することができる。このラチェトの爪は、内側の軸と外輪の軸との間にあって、バネによりラチェットが付属して回転する軸から爪の先端が跳ね上がるようになっていて 外の軸の段差に爪の先端が当たって一方向にだけ回転を伝える。このラチェット機構を有するので、乗員は足の回転を止めても、スプロケットは空転して自転車は走行できる。この機構により、自転車の乗員は 疲労を少なくでき、ピストントラック競技で使用される競輪用の自転車を除く他のほぼ全ての自転車に このラチェット機構が付属していることは、当業者においては自明である。したがって、自転車では後輪のラチェット機構を有するスプロケットにチェーンで連動するギヤクランクを踏んで、走行できるクランクの回転方向は、クランクの軸の前方にペダルがあって上から下へ踏む時だけなのが自転車の通例であり、当業者では自明である。また、競輪競技の自転車のギヤクランクと後輪のラチェット機構を有しないスプロケットとの場合 完全に後輪と前輪は連動するが、その場合でもクランクのペダルが逆回転することはないが、足のつま先をトウクリップとトウストラップによりペダルに固定して逆回転方向に足の力を入れて、足の回転を遅くすることで速度を低下させる機能を持つ。

雑誌サイクルスポーツ 発行所 八重洲出版昭和53年12月1日発行第9巻第14号の第13頁の写真と説明では「〈省略〉クランク部に遊星ギヤを採用していて、前に踏んでも後ろに踏んでも前進しかしないという偏屈タンデム。後ろに踏むの疲れるよ!右下はひとり乗り。」と掲載されていて、後ろに踏むことについて否定的である。

以上のように、自転車は前進させるためにペダルを前に踏むのであって、原動機付きのバイクの場合でも二輪車の場合は後ろに駆動するのは知られていなく、小回りが効くから取り扱いの上で前進の駆動機構だけである以上、引用例 実開昭49-22640号公報と実開昭56-8599号公報は周知の事実で否定され違法であり、審査と審判で引用されたので 手続きは違法である。

証拠方法

甲第1号証 平成7年12月15日付け特許査定の審決書謄本

甲第2号証 本願発明特許出願公告

甲第3号証 実開昭56-8599号公報

甲第4号証 実開昭49-22640号公報

甲第5号証 実公昭49-6923号公報

甲第6号証 出願公告決定書謄本

甲第7号証 平成2年4月17日付け発送の審査での拒絶理由通知書

甲第8号証 平成2年8月28日付け発送の拒絶査定

甲第9号証 平成3年12月2日付け審判での第1回目の拒絶理由通知書

甲第10号証 平成4年2月19日付け第1回目の審決

甲第11号証 平成5年11月24日付け審判での第2回目の拒絶理由通知書

甲第12号証 平成6年5月26日付け審判での第3回目の拒絶理由通知書

証拠は、その他必要に応じて提出する。

平成8年3月6日

原告 出塚寛孝

東京高等裁判所 御中

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